『ルナルナ』ピルモード 監修医インタビュー

ピル服支援プロジェクトを通して、女性が自らの性に誇りを持てる世の中に

 エムティーアイが運営する、ライフステージや悩みにあわせて女性の一生をサポートする健康情報サービス『ルナルナ』は、先日新たに「ピル(OC/LEP)モード」(以下、「ピルモード」)を追加し提供を開始しました。
 日常生活に支障を来すような重い月経痛は「月経困難症」といわれ、国内に推定800万人以上の患者がいるとされている女性にとって身近な疾患です。『ルナルナ』は、月経困難症の治療に効果的な低用量ピルの服薬をサポートするため「ピル服薬支援プロジェクト」を立ち上げ、その取り組みの第1弾としてアプリで服薬を支援する「ピルモード」がスタートしました。
 今回は、本プロジェクトの監修医であり、長年月経困難症の患者と向き合ってきた東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授の甲賀先生のインタビューをお届けします。

 

 

東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授 甲賀かをり先生

先生_正面

 ≪経歴≫

1996年 千葉大学医学部卒業 東京大学医学部付属病院 産婦人科 研修医

1997年、1998年 三井記念病院、国立霞ヶ浦病院(現:独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター) 産婦人科研修医

1999年~2002年 大学院

2000年 産婦人科専門医取得

2003年 武蔵野赤十字病院産婦人科医員

2004年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 助手(その後助教)

2006年~2008年 豪州プリンスヘンリー研究所、米国イエール大学留学

2008年 帰国、留学生や大学院生の指導を開始

2011年 生殖医療専門医、婦人科内視鏡技術認定医取得

2013年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 講師 病棟医長

2014年 日本内分泌学会 専門医・指導医取得

2014年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 准教授

 

●インタビュー日:2019年10月3日

長年月経困難症の治療と啓発に携わってきた医師として、医師と患者、それぞれが感じている“ピルへのハードル”を低くしたい

どのような背景で月経困難症の啓発活動をされているのでしょうか。

 私は1996年に医師になり、1999年から4年間大学院で子宮内膜症に関する研究をしてきました。その頃日本では避妊用の低用量ピルが世の中に出たばかりでしたが、海外では既に子宮内膜症や月経困難症に低用量ピルが効果的だということが論文などで証明されていました。そのため、子宮内膜症や月経困難症などの症状で来院する患者さんには充分に説明を行ったうえで、希望する人には当時は適応外使用だった低用量ピルを処方していました。そのような時代が10年ほど続き、その後、時代の波もありピルも段々と世の中に広がり始め、月経困難症や子宮内膜症に関する啓発など、社会的な活動に参加する機会も何度か頂きながらここまで来ました。臨床現場での課題などを肌で感じる経験も多く、ピルの処方、服薬には患者さん側にも医師側にも越えなければならないいくつものハードルがあることを実感しています。

 

ピル処方において、医師が感じるハードルとはどのようなものでしょうか

 医師側のハードルには、情報不足や患者さんへの説明の困難さがあると考えています。
 産婦人科医と言っても様々で、お産がメインの先生もいればがん治療が専門の先生もいるため、このようなピルの啓発に関する取り組みがまだまだ届いていない人もいます。そのため、重い月経痛を抱えた女性が勇気を出して婦人科を受診しても、そこで先生に「ピルなんて副作用があるからやめた方が良い」などと言われた、というようなことも少なくありません。また、低用量ピルにベネフィットとリスクどちらも存在しているのも事実で、医師の中には患者さんが想定外の副作用で苦しむことを懸念している人も多いでしょう。患者さんへの薬剤についての説明のコツや、医師側が抱える懸念を克服していくためのヒントを提供するなど、もっと医師に向けての声掛けを強化し、先生方のハードルを下げるお手伝いができないかと常々考えています。

 

ピルの服薬に関して患者が感じるハードルとはどのようなものでしょうか

先生_横 患者さんが感じるハードルには大きく3つの段階があると考えています。
 まず1つ目が、病院を受診するまでのハードルです。日常的に月経痛を抱えている女性は多くいますが、その状態が当たり前になりつつある中で、月経痛を病気と疑って婦人科を受診することは簡単ではないと思います。2つ目に、医師に症状を伝え、ピルの選択肢を提示されたときに「服薬を決断する」というハードルが生まれます。薬剤についての正しい知識がなければ、“ピル=避妊”だとか、“性に奔放な女性が飲む薬”というイメージだけが先行してしまい服薬を決断できない人もいます。また、本人に抵抗がなくても、保護者がネガティブなイメージを持っているがために薬を受け取らせないケースもあります。そして3つ目に、服薬をきちんと継続する、という段階でのハードルです。ピルは、飲み始めの初期に起こりやすい吐き気や不正出血、むくみ、血栓への恐怖などから、1錠でやめてしまう人が沢山いることが現実です。これらのハードルをなくすためにも多方面からのアプローチが必要となり、今回の『ルナルナ』との取り組みもその一環だと捉えています。 

性教育に変革を。包括的な知識を若年層に伝える基盤を構築したい

女性の健康について正しい理解を深めるために、学校教育はどうあるべきでしょうか。

 根本的なアプローチを考えれば、学校教育の変革が必要だと思います。
 昔から、性教育においては「いかに避妊するか」というテーマの議論は進んできた一方で、例えば「何歳まで子どもを産めるのか」、「まだ妊娠を望んでいない時期にどのようなケアをしていれば、実際に子どもを望んだときに描いているライフプランを実現できるのか」、ということを考えさせる機会が少ないのが現状ですよね。勿論、若年層の妊娠が問題になることもわかりますが、それだけがフィーチャーされすぎて、家族を持ちたいと思ったときのために必要な知識が充分に備わっていない、それを伝える基盤が欠落しているということは大きな課題です。また、少女が月経痛や月経不順を抱えていたり、無理なダイエットなどにより無月経になってしまったときに、家族や婦人科に相談すべきだという内容が教科書には載っていません。そのため、異変に気が付けるのは一部の意識の高い部活動の顧問や養護学級の教員だけで、非常に属人化した状態になっています。

 私も養護の先生と性教育について話し合ったり、保健体育の教科書に記載する内容をどうすべきかを文部科学省の関係者と検討する機会があったり、学校教育に関しては強い関心を持っています。しかし、学習指導要領は10年に1度程度しか変更されないため、今すぐ抜本的な変化を望めるかというと難しく、先は長いと思います。ただ、性教育の進化を真剣に考えている医師は沢山います。 

就労環境の整備はもちろん、若年層から正しい情報にたどり着ける仕組みづくりを

ピルへのハードルを下げるための動きは既にあるとは思いますが、あと一歩先に進めるためにはどのようなことが必要でしょうか

先生_下向き 中高生、大学生、働く女性、それぞれに響くアプローチは異なりますので、ひとつの手段ではなかなか浸透しないだろうと考えています。例えば働いている女性は、病院に行きたくてもなかなか「月経」を理由に会社を休みにくいですよね。これが月経ではなく、目に見えるケガや不調であれば周りの人も病院へ行くように声をかけてくれると思いますが、月経痛の苦しみは本人もあまり表に出せず、月経が終われば症状もなくなってしまうため、後から「先月の月経痛がひどかったから」と受診できる人は少ないと思います。さらに、月によっては症状の重さも異なり「今月は軽いから大丈夫」などと様子を見ているうちに半年が経過していたというケースも少なくないため、症状が表れたときに堂々と休んで医療機関を受診できる環境整備が非常に大事だと思います。

 若年層に関しては、月経にまつわる情報をスマートフォンやSNSで確認している人が圧倒的に多く、母親や学校の先生に相談する人は少数派のようです。ただ残念なことに、それらしいキーワードで検索しても、きちんとした医学的エビデンスに基づいた記事やサイトにたどり着ける人は少なく、診察をしていても、著名人のブログや民間療法のサイトなどに行き着き、そこに書いている情報をそのまま信じてしまう人があまりにも多いように見受けられます。情報があふれて正しい取捨選択ができないがために、診察に訪れるまでに遠回りしてしまうのだと思いますが、だからこそ、正しい情報が掲載されたサイトにきちんとたどり着けるような仕組みや工夫が必要だと考えています。  

産婦人科にとって『ルナルナ』は手を組むべきパートナー

そのような課題があるなかで、『ルナルナ』への印象はどのようなものでしたか?また、今回のピル服薬支援プロジェクトに賛同下さった理由や、期待していることを教えてください。

 正直なところ、産婦人科医からすると『ルナルナ』は避妊をするために、妊娠しない日を予測するサービスだと誤解している医師は多いと思います。
 サービスの責任ではないのですが、『ルナルナ』を利用している女性がアプリでの排卵日予測などを利用し、「この日は妊娠しない」と自己判断した上で性交渉を行った結果、妊娠を疑い医療機関を受診すると、それを表面的に聞いた産婦人科医が「ルナルナ=悪」という印象を抱いてしまっている現実はあると思います。私も実際にそのように思っていた時期もありましたが、女性アスリートを支援するサービス『ルナルナ スポーツ』の監修医をされている能瀬さやか先生のお話を聞いたり、実際にアプリを使ってみて、サービスの仕組みやデザインなどに触れたりしているうちに、このようなツールを上手に使うことで女性にベネフィットが生まれることがわかってきました。

 私は常々、女性が基礎体温などのヘルスデータを『ルナルナ』に限らず何らかの形で記録しておくことの重要性を患者さんに指導しています。全くリテラシーがない人は、診察の際に最終月経日や痛みなどの症状を聞いて覚えておらず問診にも時間がかかるため、私の患者さんにはきちんと記録を付けさせ、月経の何日目に痛み止めをどの程度飲んだのかなども意識してもらうようにしています。それが習慣づくことで体調の変化や傾向にも自ら気が付けるようになり、PMSなどの把握・対処にも効果的ですので、妊娠希望/避妊希望に関わらず女性にとって必要な行動だと思いますね。ケースとしては少ないですが、気胸などが月経とリンクしている人もおり、そのような関係性は記録していないとわかりづらいので、記録することで自分がいつ苦しくなるのかなどを事前に把握するきっかけにしてほしいです。医師としては、最終的にはどのような対処を行えばカラダが楽になるのを知って欲しいので、広く女性の健康を支援するためにも『ルナルナ』のようなサービスとうまく連携することは有効な手段だと思います。

「ピルモード」のここがポイント!医師と患者の新しい懸け橋に 

今回監修頂いた「ピルモード」の特徴や、臨床現場でみるべきポイントを教えてください

キャプチャ画面 患者さんの視点から考えると、「ピルモード」は、製薬企業が異なる複数の薬剤を同じアプリで記録・管理できるところが便利です。ピルの服薬期間に応じたアドバイスが表示される「今日のひとこと」も、服薬初期などに起こりやすい副作用で悩んでいる際のサポートとなりありがたいと思います。

 また、医師と患者さんが同じツールで服薬状況を確認できる点が魅力ですね。ピルを服薬したときに生じる副作用などを記録することは大変重要ですので、我々も以前から複写式の記入シートなどを利用して医師と患者さんそれぞれが保有できるようアナログで管理していました。ただ、患者さんによっては紙に数字だけ書く人もいれば、エクセルに症状などをきれいにまとめてくる人もいて、診察時に持参する記録の形式が異なることでとても見づらくなってしまうという課題がありました。「ピルモード」では、皆さんが同じアプリで記録したものを、「ルナルナ メディコ」※1を通して医師側のパソコンやタブレット端末などで確認できる機能がとても画期的です。医師と患者さんが同じ形式で閲覧できる情報をもとに会話しながら診察ができるのは、患者さんの治療に関する理解の向上にも必ずつながると思います。 

 

先生女の子

アプリによる臨床現場での新たな発見にも期待!

―「ピルモード」が与える影響として、どのようなものがあるとお考えですか。

 今回のアプリが臨床現場へ浸透することで、新たな発見が生まれることにも期待しています。例えば特定の薬剤を服薬した際の症状の傾向を、複数の患者さんを対象に横断的に統計を取ることも可能になるでしょうし、全国のクリニックでの薬剤ごとの利用者数や割合、継続率などを『ルナルナ』がデータとして出してくれれば、クリニックにとって役立つ情報になるはずです。
 患者さんに服薬を継続させるコツは、服用開始時に、あらかじめ発生し得る症状を丁寧に説明しておくことだと思います。そのためには、症状の傾向を深く理解していなくてはなりません。私たちは実際に患者さんに、むくみ、不正出血などの有無、あればその時期を詳しく聞いています。ただ、服薬何日目にはこのような症状が出る、という記録を詳細にとっている先生は少ないと思うので、臨床医の先生には、諸症状の傾向などに注目して「ピルモード」を活用して欲しいです。そのような情報が蓄積され、視覚的にも見やすくなっていくことで、目の前にいる患者さんのサポートになるのは勿論ですが、それがほかの患者さんに説明する際のエビデンスになったり、医師としての知見となったりしていけば素晴らしいですね。

今後、服薬支援のデータが蓄積されれば、学術的にも価値のあるエビデンスが出てくることも考えられますので、学会発表などの可能性もあると思います。臨床現場でどのように活躍するのか、今からわくわくしています。 

女性が自らの性を誇りに思える世の中へ

今後ピルを取り巻く環境においてどのようなことを期待していますか。

 アプリの提供にとどまらず、患者さんの“モヤモヤ”を晴らせる活動ができればと思っています。

 既にピルを服薬している人でも、不安に思っていることを医師に相談しきれていなかったり、服薬の継続効果をもっと知りたかったりと、“モヤモヤ”を抱えたままの人が沢山いると思っています。それを出来るだけクリアにするために、ピルをモヤモヤしながら服薬している人を集めて薬剤について説明をする場を設けたり、簡単な診察を行うイベントを開催できたりすれば理想的だと個人的には考えています。Webやアプリで正しい情報を提供しても、それを読むだけでは伝えきれないことも必ずあると思いますし、逆にアプリだからこそ取得できる情報もあると思います。せっかく始まったプロジェクトなので、情報をばらまいただけで終わらせるのではなく、アプリとリアルな場をうまく使ってお互いを補完しながら、一方的な発信だけではなく双方向的なコミュニケーションを実現させたいですね。

 また、ピルを飲んでいるということで周りからセクシャルアクティブな女性だと見られてしまうなど、ピルに対する偏見がまだまだ残っていると感じていますが、この風潮は女性が自らの性を誇りに思うことを阻んでしまうもので、医師としては非常に憤りを覚えます。女性であるからこそ生じるカラダの症状を日常からきちんと意識し、QOLを高めるために自己管理をしている行為が「ふしだら」と思われてしまうような社会は間違っていると思うので、今回のような取り組みを世の中に知らしめることで、月経や基礎体温の管理の延長にピルの管理も抵抗なく語られるような世の中にしていきたいです。

 本プロジェクトは、そのような理解の浸透のために役立つはずだと信じていますし、正しい認識を広く伝えていくことは、学術的な面も臨床現場も知る大学病院の医師としての役割だと思っています。

 

 

※1:『ルナルナ』で記録した月経周期や基礎体温などの健康情報をクラウドで保存し、患者の希望の上で提携している医療機関へデータを連携開示できる医師と女性をつなぐシステム

 

 

 

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