「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」利用者インタビュー

プログラム利用者インタビュー Profile 吉崎 美帆 『企業向けCARADAパック』の営業に3年間従事し、現在はヘルスケア事業本部 CARADAヘルスケア統括部...

プログラム利用者インタビュー

Profile

吉崎 美帆

『企業向けCARADAパック』の営業に3年間従事し、現在はヘルスケア事業本部 CARADAヘルスケア統括部 CARADA法人事業部にて『企業向けCARADAパック』のサービス改善などを行う企画を担当。

社内制度利用が自身の体調と向き合い、婦人科受診するきっかけに

―低用量ピルの服薬前の状況について教えてください

 生理前後の不快な症状や生理中に腹痛、腰痛などを感じてはいたものの、1日中横になって休んでいなければならいないほどの痛みではなかったので、生理休暇制度1などは使わず、市販薬などを服薬して乗り切っていました。
 PMS(月経前症候群)や生理中の不調が強いため低用量ピルを服薬しているという友人や同僚もおり、低用量ピルの服薬に興味を持っていたものの、我慢できないほどの症状ではないこと、また通院や薬代などを考慮して服薬を見送っていました。
 また、これまで一度も婦人科にかかったことが無く、病院・クリニック探しから始める必要があったことも低用量ピルの服薬を開始するためのハードルとなりました。

 

―低用量ピルの服薬を始めたきっかけを教えてください

 福利厚生制度として、『ルナルナ オンライン診療』2を用いた「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」3が始まると知り、この機会に服薬を前向きに検討したいと思いました。
 事前の社内説明会では『ルナルナ』の「ピル(OC/LEP)モード」4を監修している東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授の甲賀かをり先生より、女性の身体の仕組み、生理前後で起こる身体の変化についてや、低用量ピルの服薬のメリットなどを聞くことができ、理解が深まりました。
 その際、甲賀先生が「生理前後の不快な症状で困っていることがあれば、それは病気と捉えて病院にかかり、服薬などで改善していくことが望ましい」と仰っていたのが印象的です。
 これまで生理前後の症状で困ってはいたものの、我慢できないほどではなく改善するための行動が取れていませんでしたが、まずは支援制度を通じて婦人科を受診してみようと前向きに考えるきっかけとなりました。

 

―初診から低用量ピル服薬開始の流れを教えてください

 制度の利用にあたり、まず3月に婦人科の初診を受けました。初診は実際に婦人科に行く対面診療となるため5、提携医療機関の中から受診する病院を決め、前日に予約を取りました。医師の診察と低用量ピルの服薬指導を受けた後、低用量ピルを1シート処方され服薬を開始しました。初めての婦人科受診ということで少々不安もありましたが、初診予約から服薬開始までとてもスムーズで戸惑うことはありませんでした。
 低用量ピルの服薬開始に合わせて『ルナルナ』の利用ステージを「ピル(OC/LEP)モード」に変更し利用するようになりました。低用量ピルは毎日服薬する必要がありますが、慣れないうちは服薬を忘れてしまうこともあったので、服薬を知らせてくれる「服薬通知メッセージ」が役立ちました。
 幸い副作用が表れることもなく順調に服薬を続けられています。

 

オンライン診療は継続的に受診しやすいことがメリット

―『ルナルナ オンライン診療』を用いた受診について教えてください

 初診の際に、1シート目を飲み終わるころに受診するよう言われていたため、再診は『ルナルナ オンライン診療』を通じて再診予約を取り、オンラインで受診しました。私の場合、オンライン診療の予約も前日の夜に予約して次の日には診察を受けることができたので、直前であっても受診したいタイミングで予約ができたのはとても便利でした。
 低用量ピルは薬が切れる前に受診し、次回以降服薬する薬を入手する必要がありますが、服薬を継続する中で仕事などの都合上タイミングよく病院に行くことが難しい状況もあるかもしれません。オンライン診療であれば通院のために会社を休んだり早退したりせずとも、業務の合間などにオンラインで診察を受け、薬が自宅に配送されてくるので、今後も服薬を継続しやすいと感じました。

 

―オンライン診療に対する不安はありましたか?

 再診がオンライン診療となることに不安はありませんでした。私自身は副作用を感じることもなかったため、オンライン診療で医師の診察を受け、疑問点があればその際に聞くことができて満足しています。もし副作用が出たとしたら“対面診療で受診したい”と思ったかもしれませんが、そのような場合でもまずは不安があれば気軽に相談できる点がオンライン診療の良さだと思います。
 処方薬も再診後1~2日程度で、自宅で受け取れたので、なかなか薬が届かず困るということもありませんでした。
 再診の時期がちょうど新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて緊急事態宣言が出された頃だったのですが、通院を躊躇する状況の中でも外出することなく受診から薬の受け取りまでできたので、無事に服薬を継続することができたのもオンライン診療ならではのメリットだと思います。
 また、これまで婦人科を受診したことが無かったため、何か不調があった場合に気軽に受診できる婦人科がありませんでしたが、対面でもオンラインでも受診可能な婦人科をかかりつけにすることができたので、今後婦人科関連で不調や困りごとが出てきた場合の相談先ができて安心しました。
 福利厚生制度として婦人科受診、低用量ピルの服薬を推奨されたことをきっかけに将来を見据えて自身の健康と身体の状態に向き合うことができました。服薬を始めて日が浅いため大きな体調変化は感じていませんが、今後も低用量ピルの服薬を継続し、定期的に婦人科受診することで自身の体調に目を配っていきたいと思います。

 

人事部インタビュー

プログラムを通じて女性特有の不調への理解向上を促し、男女ともにより働きやすい職場環境を実現

 

 当社では2020年2月より福利厚生制度として「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」を開始しました。本プログラムの立案と施行に携わった人事部担当者に制度導入の背景や人事部視点でのオンライン診療活用の利点について話を聞きました。

 

―プログラム導入の背景を教えてください

 制度の導入背景は大きく3つあります。
 1つ目は多くの女性社員が健康課題としてPMSや生理中などの症状を挙げていたことです。社内で毎年行っている健康意識調査では女性社員の約8割がPMSや生理痛などの症状を感じていることが分かり、課題感を感じていました。
 2つ目に、社内だけでなく社外の調査結果も参照したところ、様々な健康課題があるなかでもPMSや生理中の症状が女性社員の生産性の低下に比較的大きく影響を及ぼすことがわかり、女性社員が約4割いる当社においては、PMSや生理痛などの改善施策が必要だと思いました。
 3つ目は、当社が提供する女性の健康情報サービス『ルナルナ』と子会社である株式会社カラダメディカが『ルナルナ オンライン診療』を提供開始したことで、そのサービスを利用した人事制度は当社のヘルスケア事業とも親和性が高く、当社らしい健康経営の取組みとして企業アピールになると考えたためです。
 また、オンライン診療を活用することで、生理痛をはじめとする生理中の不快症状やPMSなどに対して気軽に婦人科に相談できる環境づくりと通院にかかる負担の軽減を図ることで、女性特有の症状による健康課題を改善し、より働きやすい職場づくりを目指したいと考えました。
 このような背景から、今回「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」制度を立案し、導入することにしました。

※現在は初診からオンライン診療が可能

―プログラムの実施状況について教えてください

 「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」の導入にあたり希望する女性社員の協力のもと半年間の実証を実施中です。実証には19名の社員が参加しています。
 事前のアンケート調査では、参加者の半数近くが生理の影響について「横になって休息したくなるほど支障をきたす」と答えています。また、生理による体調不良により、全休や半休を取得している人もいれば、全く仕事を休まずに働いている人もいることがわかりました。仕事を休まず働いている人の中には、業務への集中力が損われたり、ストレスを抱えながら業務にあたっているとの回答もありました。
 このような生理前後の体調不良の解決策として低用量ピルを継続的に服薬することが有効と言われており、本プログラムを通じて婦人科の受診やピルの服薬を継続することで、自身の身体と向き合って体調管理を行えるように支援することを目指しています。
 また、『ルナルナ オンライン診療』を通じて、現在は実証実験として業務時間内でもオンラインによる診察を受けることが可能なルールとしているため、会社を休んだり、遅刻・早退する必要もなく、業務の合間などの隙間時間に受診もできます。そのため、業務が忙しい中でも通院を続けられることや、服薬の継続により体調不良が緩和されることで、ひいては生産性高く働いてもらえることにつながると期待しており、実際に効果が出ればとても良い制度だと考えています。
 今後、本プログラムを利用している社員に対してアンケート調査などを実施し効果検証を実施する予定です。
 また、本プログラムの開始前には社内で東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授 甲賀かをり先生による「女性のカラダの知識講座」を全社員向けに実施しました。
 講座はプログラムの対象者である女性社員だけでなく、男性社員も参加することで、社内全体で生理痛やPMSなどの女性特有の症状に対する理解と意識を向上させ、男女ともにより働きやすい職場の環境の実現を目指しました。講座に参加した女性社員からは“自身の健康や体調を考えるきっかけとなった”という声が多く上がり、男性社員は“女性の同僚や部下の体調について知るきっかけとなり、より配慮しようと考えた”という人が増えました。

 

オンライン受診の積極活用で多忙な従業員も健康的に働き続けられることを期待

―人事の視点からオンライン診療にはどのようなメリットがありますか?

 多忙な社員が多い中、仕事を休んでまで病院・クリニックに行かないという社員もおり、隙間時間に診察を受けられるオンライン診療の活用を通じて体調が悪化する前の段階で受診し健康を維持できるという点に期待しています。
 また、職種によっては出張が多い社員もいるため、業務で遠方にいてもオンライン診療でかかりつけの病院・クリニックを受診できるようになれば、職種に限らず従業員が健康で生産性高く業務を遂行することに繋がることが期待できるため、社員はもちろん会社にとっても非常に良いことだと考えています。
 現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受け当社もテレワークに移行していますが、このような状況の中で従業員が自宅からオンライン診療を受診し、外出による感染リスクを回避しながら、健康的に働くことができるのは会社にとっても利点と言えます。
 人事部としては今後も従業員が体調不良の際に『CARADA オンライン診療』や『ルナルナ オンライン診療』を積極的に活用するよう推奨していきたいと思います。

 

 

 

※1生理日に著しく就業困難な者が、必要な期間、休暇の取得ができる制度。

※2株式会社カラダメディカが提供する産婦人科向けのオンライン診療システムで、診療、決済、薬または処方せんの受け取りまでを自宅で行うことが可能。『ルナルナ』と一部の機能を連携し、患者は『ルナルナ』から医療施設を検索・予約も可能。(希望する産婦人科が『ルナルナ オンライン診療』を利用していない場合は、受診できません。)

※3エムティーアイ、独自の女性社員向け福利厚生制度『ルナルナ オンライン診療』を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬支援を開始!~働く女性の8割以上が生理痛やPMSなどの影響を感じている~(https://www.mti.co.jp/?p=24891
※4『ルナルナ』の「避妊希望ステージ」に追加された機能。服薬や通院のスケジュール管理のほか、服薬期間に応じたメッセージ通知、薬や疾患に関する医師監修のコラム配信などを通じて、ピルの服薬における不安を和らげ、安心して服薬を継続できる環境をサポートする。

※5「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(https://www.mhlw.go.jp/content/000620995.pdf)を受け、現在は初診からオンライン診療が可能。

 

 

 

『ルナルナ』ピルモード 監修医インタビュー

 エムティーアイが運営する、ライフステージや悩みにあわせて女性の一生をサポートする健康情報サービス『ルナルナ』は、先日新たに「ピル(OC/LEP)モード」(以下、「ピルモード」)を追加し提供を開始しました。 日常生活に支障を来すような重い月経痛は「月経困難症」といわれ、国内に推定800万人以上の患者がいるとされている女性にとって身近な疾患です。『ルナルナ』は、月経困難症の治療に効果的な低用量ピルの服薬をサポートするため「ピル服薬支援プロジェクト」を立ち上げ、その取り組みの第1弾としてアプリで服薬を支援する「ピルモード」がスタートしました。 今回は、本プロジェクトの監修医であり、長年月経困難症の患者と向き合ってきた東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授の甲賀先生のインタビューをお届けします。     東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授 甲賀かをり先生  ≪経歴≫ 1996年 千葉大学医学部卒業 東京大学医学部付属病院 産婦人科 研修医 1997年、1998年 三井記念病院、国立霞ヶ浦病院(現:独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター) 産婦人科研修医 1999年~2002年 大学院 2000年 産婦人科専門医取得 2003年 武蔵野赤十字病院産婦人科医員 2004年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 助手(その後助教) 2006年~2008年 豪州プリンスヘンリー研究所、米国イエール大学留学 2008年 帰国、留学生や大学院生の指導を開始 2011年 生殖医療専門医、婦人科内視鏡技術認定医取得 2013年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 講師 病棟医長 2014年 日本内分泌学会 専門医・指導医取得 2014年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 准教授   ●インタビュー日:2019年10月3日 長年月経困難症の治療と啓発に携わってきた医師として、医師と患者、それぞれが感じている“ピルへのハードル”を低くしたい ―どのような背景で月経困難症の啓発活動をされているのでしょうか。  私は1996年に医師になり、1999年から4年間大学院で子宮内膜症に関する研究をしてきました。その頃日本では避妊用の低用量ピルが世の中に出たばかりでしたが、海外では既に子宮内膜症や月経困難症に低用量ピルが効果的だということが論文などで証明されていました。そのため、子宮内膜症や月経困難症などの症状で来院する患者さんには充分に説明を行ったうえで、希望する人には当時は適応外使用だった低用量ピルを処方していました。そのような時代が10年ほど続き、その後、時代の波もありピルも段々と世の中に広がり始め、月経困難症や子宮内膜症に関する啓発など、社会的な活動に参加する機会も何度か頂きながらここまで来ました。臨床現場での課題などを肌で感じる経験も多く、ピルの処方、服薬には患者さん側にも医師側にも越えなければならないいくつものハードルがあることを実感しています。   ―ピル処方において、医師が感じるハードルとはどのようなものでしょうか。  医師側のハードルには、情報不足や患者さんへの説明の困難さがあると考えています。 産婦人科医と言っても様々で、お産がメインの先生もいればがん治療が専門の先生もいるため、このようなピルの啓発に関する取り組みがまだまだ届いていない人もいます。そのため、重い月経痛を抱えた女性が勇気を出して婦人科を受診しても、そこで先生に「ピルなんて副作用があるからやめた方が良い」などと言われた、というようなことも少なくありません。また、低用量ピルにベネフィットとリスクどちらも存在しているのも事実で、医師の中には患者さんが想定外の副作用で苦しむことを懸念している人も多いでしょう。患者さんへの薬剤についての説明のコツや、医師側が抱える懸念を克服していくためのヒントを提供するなど、もっと医師に向けての声掛けを強化し、先生方のハードルを下げるお手伝いができないかと常々考えています。   ―ピルの服薬に関して患者が感じるハードルとはどのようなものでしょうか。  患者さんが感じるハードルには大きく3つの段階があると考えています。 まず1つ目が、病院を受診するまでのハードルです。日常的に月経痛を抱えている女性は多くいますが、その状態が当たり前になりつつある中で、月経痛を病気と疑って婦人科を受診することは簡単ではないと思います。2つ目に、医師に症状を伝え、ピルの選択肢を提示されたときに「服薬を決断する」というハードルが生まれます。薬剤についての正しい知識がなければ、“ピル=避妊”だとか、“性に奔放な女性が飲む薬”というイメージだけが先行してしまい服薬を決断できない人もいます。また、本人に抵抗がなくても、保護者がネガティブなイメージを持っているがために薬を受け取らせないケースもあります。そして3つ目に、服薬をきちんと継続する、という段階でのハードルです。ピルは、飲み始めの初期に起こりやすい吐き気や不正出血、むくみ、血栓への恐怖などから、1錠でやめてしまう人が沢山いることが現実です。これらのハードルをなくすためにも多方面からのアプローチが必要となり、今回の『ルナルナ』との取り組みもその一環だと捉えています。  性教育に変革を。包括的な知識を若年層に伝える基盤を構築したい ―女性の健康について正しい理解を深めるために、学校教育はどうあるべきでしょうか。  根本的なアプローチを考えれば、学校教育の変革が必要だと思います。 昔から、性教育においては「いかに避妊するか」というテーマの議論は進んできた一方で、例えば「何歳まで子どもを産めるのか」、「まだ妊娠を望んでいない時期にどのようなケアをしていれば、実際に子どもを望んだときに描いているライフプランを実現できるのか」、ということを考えさせる機会が少ないのが現状ですよね。勿論、若年層の妊娠が問題になることもわかりますが、それだけがフィーチャーされすぎて、家族を持ちたいと思ったときのために必要な知識が充分に備わっていない、それを伝える基盤が欠落しているということは大きな課題です。また、少女が月経痛や月経不順を抱えていたり、無理なダイエットなどにより無月経になってしまったときに、家族や婦人科に相談すべきだという内容が教科書には載っていません。そのため、異変に気が付けるのは一部の意識の高い部活動の顧問や養護学級の教員だけで、非常に属人化した状態になっています。  私も養護の先生と性教育について話し合ったり、保健体育の教科書に記載する内容をどうすべきかを文部科学省の関係者と検討する機会があったり、学校教育に関しては強い関心を持っています。しかし、学習指導要領は10年に1度程度しか変更されないため、今すぐ抜本的な変化を望めるかというと難しく、先は長いと思います。ただ、性教育の進化を真剣に考えている医師は沢山います。  就労環境の整備はもちろん、若年層から正しい情報にたどり着ける仕組みづくりを ―ピルへのハードルを下げるための動きは既にあるとは思いますが、あと一歩先に進めるためにはどのようなことが必要でしょうか。  中高生、大学生、働く女性、それぞれに響くアプローチは異なりますので、ひとつの手段ではなかなか浸透しないだろうと考えています。例えば働いている女性は、病院に行きたくてもなかなか「月経」を理由に会社を休みにくいですよね。これが月経ではなく、目に見えるケガや不調であれば周りの人も病院へ行くように声をかけてくれると思いますが、月経痛の苦しみは本人もあまり表に出せず、月経が終われば症状もなくなってしまうため、後から「先月の月経痛がひどかったから」と受診できる人は少ないと思います。さらに、月によっては症状の重さも異なり「今月は軽いから大丈夫」などと様子を見ているうちに半年が経過していたというケースも少なくないため、症状が表れたときに堂々と休んで医療機関を受診できる環境整備が非常に大事だと思います。  若年層に関しては、月経にまつわる情報をスマートフォンやSNSで確認している人が圧倒的に多く、母親や学校の先生に相談する人は少数派のようです。ただ残念なことに、それらしいキーワードで検索しても、きちんとした医学的エビデンスに基づいた記事やサイトにたどり着ける人は少なく、診察をしていても、著名人のブログや民間療法のサイトなどに行き着き、そこに書いている情報をそのまま信じてしまう人があまりにも多いように見受けられます。情報があふれて正しい取捨選択ができないがために、診察に訪れるまでに遠回りしてしまうのだと思いますが、だからこそ、正しい情報が掲載されたサイトにきちんとたどり着けるような仕組みや工夫が必要だと考えています。   産婦人科にとって『ルナルナ』は手を組むべきパートナー ―そのような課題があるなかで、『ルナルナ』への印象はどのようなものでしたか?また、今回のピル服薬支援プロジェクトに賛同下さった理由や、期待していることを教えてください。  正直なところ、産婦人科医からすると『ルナルナ』は避妊をするために、妊娠しない日を予測するサービスだと誤解している医師は多いと思います。 サービスの責任ではないのですが、『ルナルナ』を利用している女性がアプリでの排卵日予測などを利用し、「この日は妊娠しない」と自己判断した上で性交渉を行った結果、妊娠を疑い医療機関を受診すると、それを表面的に聞いた産婦人科医が「ルナルナ=悪」という印象を抱いてしまっている現実はあると思います。私も実際にそのように思っていた時期もありましたが、女性アスリートを支援するサービス『ルナルナ...

 エムティーアイが運営する、ライフステージや悩みにあわせて女性の一生をサポートする健康情報サービス『ルナルナ』は、先日新たに「ピル(OC/LEP)モード」(以下、「ピルモード」)を追加し提供を開始しました。
 日常生活に支障を来すような重い月経痛は「月経困難症」といわれ、国内に推定800万人以上の患者がいるとされている女性にとって身近な疾患です。『ルナルナ』は、月経困難症の治療に効果的な低用量ピルの服薬をサポートするため「ピル服薬支援プロジェクト」を立ち上げ、その取り組みの第1弾としてアプリで服薬を支援する「ピルモード」がスタートしました。
 今回は、本プロジェクトの監修医であり、長年月経困難症の患者と向き合ってきた東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授の甲賀先生のインタビューをお届けします。

 

 

東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授 甲賀かをり先生

先生_正面

 ≪経歴≫

1996年 千葉大学医学部卒業 東京大学医学部付属病院 産婦人科 研修医

1997年、1998年 三井記念病院、国立霞ヶ浦病院(現:独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター) 産婦人科研修医

1999年~2002年 大学院

2000年 産婦人科専門医取得

2003年 武蔵野赤十字病院産婦人科医員

2004年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 助手(その後助教)

2006年~2008年 豪州プリンスヘンリー研究所、米国イエール大学留学

2008年 帰国、留学生や大学院生の指導を開始

2011年 生殖医療専門医、婦人科内視鏡技術認定医取得

2013年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 講師 病棟医長

2014年 日本内分泌学会 専門医・指導医取得

2014年 東京大学医学部付属病院 産婦人科 准教授

 

●インタビュー日:2019年10月3日

長年月経困難症の治療と啓発に携わってきた医師として、医師と患者、それぞれが感じている“ピルへのハードル”を低くしたい

どのような背景で月経困難症の啓発活動をされているのでしょうか。

 私は1996年に医師になり、1999年から4年間大学院で子宮内膜症に関する研究をしてきました。その頃日本では避妊用の低用量ピルが世の中に出たばかりでしたが、海外では既に子宮内膜症や月経困難症に低用量ピルが効果的だということが論文などで証明されていました。そのため、子宮内膜症や月経困難症などの症状で来院する患者さんには充分に説明を行ったうえで、希望する人には当時は適応外使用だった低用量ピルを処方していました。そのような時代が10年ほど続き、その後、時代の波もありピルも段々と世の中に広がり始め、月経困難症や子宮内膜症に関する啓発など、社会的な活動に参加する機会も何度か頂きながらここまで来ました。臨床現場での課題などを肌で感じる経験も多く、ピルの処方、服薬には患者さん側にも医師側にも越えなければならないいくつものハードルがあることを実感しています。

 

ピル処方において、医師が感じるハードルとはどのようなものでしょうか

 医師側のハードルには、情報不足や患者さんへの説明の困難さがあると考えています。
 産婦人科医と言っても様々で、お産がメインの先生もいればがん治療が専門の先生もいるため、このようなピルの啓発に関する取り組みがまだまだ届いていない人もいます。そのため、重い月経痛を抱えた女性が勇気を出して婦人科を受診しても、そこで先生に「ピルなんて副作用があるからやめた方が良い」などと言われた、というようなことも少なくありません。また、低用量ピルにベネフィットとリスクどちらも存在しているのも事実で、医師の中には患者さんが想定外の副作用で苦しむことを懸念している人も多いでしょう。患者さんへの薬剤についての説明のコツや、医師側が抱える懸念を克服していくためのヒントを提供するなど、もっと医師に向けての声掛けを強化し、先生方のハードルを下げるお手伝いができないかと常々考えています。

 

ピルの服薬に関して患者が感じるハードルとはどのようなものでしょうか

先生_横 患者さんが感じるハードルには大きく3つの段階があると考えています。
 まず1つ目が、病院を受診するまでのハードルです。日常的に月経痛を抱えている女性は多くいますが、その状態が当たり前になりつつある中で、月経痛を病気と疑って婦人科を受診することは簡単ではないと思います。2つ目に、医師に症状を伝え、ピルの選択肢を提示されたときに「服薬を決断する」というハードルが生まれます。薬剤についての正しい知識がなければ、“ピル=避妊”だとか、“性に奔放な女性が飲む薬”というイメージだけが先行してしまい服薬を決断できない人もいます。また、本人に抵抗がなくても、保護者がネガティブなイメージを持っているがために薬を受け取らせないケースもあります。そして3つ目に、服薬をきちんと継続する、という段階でのハードルです。ピルは、飲み始めの初期に起こりやすい吐き気や不正出血、むくみ、血栓への恐怖などから、1錠でやめてしまう人が沢山いることが現実です。これらのハードルをなくすためにも多方面からのアプローチが必要となり、今回の『ルナルナ』との取り組みもその一環だと捉えています。 

性教育に変革を。包括的な知識を若年層に伝える基盤を構築したい

女性の健康について正しい理解を深めるために、学校教育はどうあるべきでしょうか。

 根本的なアプローチを考えれば、学校教育の変革が必要だと思います。
 昔から、性教育においては「いかに避妊するか」というテーマの議論は進んできた一方で、例えば「何歳まで子どもを産めるのか」、「まだ妊娠を望んでいない時期にどのようなケアをしていれば、実際に子どもを望んだときに描いているライフプランを実現できるのか」、ということを考えさせる機会が少ないのが現状ですよね。勿論、若年層の妊娠が問題になることもわかりますが、それだけがフィーチャーされすぎて、家族を持ちたいと思ったときのために必要な知識が充分に備わっていない、それを伝える基盤が欠落しているということは大きな課題です。また、少女が月経痛や月経不順を抱えていたり、無理なダイエットなどにより無月経になってしまったときに、家族や婦人科に相談すべきだという内容が教科書には載っていません。そのため、異変に気が付けるのは一部の意識の高い部活動の顧問や養護学級の教員だけで、非常に属人化した状態になっています。

 私も養護の先生と性教育について話し合ったり、保健体育の教科書に記載する内容をどうすべきかを文部科学省の関係者と検討する機会があったり、学校教育に関しては強い関心を持っています。しかし、学習指導要領は10年に1度程度しか変更されないため、今すぐ抜本的な変化を望めるかというと難しく、先は長いと思います。ただ、性教育の進化を真剣に考えている医師は沢山います。 

就労環境の整備はもちろん、若年層から正しい情報にたどり着ける仕組みづくりを

ピルへのハードルを下げるための動きは既にあるとは思いますが、あと一歩先に進めるためにはどのようなことが必要でしょうか

先生_下向き 中高生、大学生、働く女性、それぞれに響くアプローチは異なりますので、ひとつの手段ではなかなか浸透しないだろうと考えています。例えば働いている女性は、病院に行きたくてもなかなか「月経」を理由に会社を休みにくいですよね。これが月経ではなく、目に見えるケガや不調であれば周りの人も病院へ行くように声をかけてくれると思いますが、月経痛の苦しみは本人もあまり表に出せず、月経が終われば症状もなくなってしまうため、後から「先月の月経痛がひどかったから」と受診できる人は少ないと思います。さらに、月によっては症状の重さも異なり「今月は軽いから大丈夫」などと様子を見ているうちに半年が経過していたというケースも少なくないため、症状が表れたときに堂々と休んで医療機関を受診できる環境整備が非常に大事だと思います。

 若年層に関しては、月経にまつわる情報をスマートフォンやSNSで確認している人が圧倒的に多く、母親や学校の先生に相談する人は少数派のようです。ただ残念なことに、それらしいキーワードで検索しても、きちんとした医学的エビデンスに基づいた記事やサイトにたどり着ける人は少なく、診察をしていても、著名人のブログや民間療法のサイトなどに行き着き、そこに書いている情報をそのまま信じてしまう人があまりにも多いように見受けられます。情報があふれて正しい取捨選択ができないがために、診察に訪れるまでに遠回りしてしまうのだと思いますが、だからこそ、正しい情報が掲載されたサイトにきちんとたどり着けるような仕組みや工夫が必要だと考えています。  

産婦人科にとって『ルナルナ』は手を組むべきパートナー

そのような課題があるなかで、『ルナルナ』への印象はどのようなものでしたか?また、今回のピル服薬支援プロジェクトに賛同下さった理由や、期待していることを教えてください。

 正直なところ、産婦人科医からすると『ルナルナ』は避妊をするために、妊娠しない日を予測するサービスだと誤解している医師は多いと思います。
 サービスの責任ではないのですが、『ルナルナ』を利用している女性がアプリでの排卵日予測などを利用し、「この日は妊娠しない」と自己判断した上で性交渉を行った結果、妊娠を疑い医療機関を受診すると、それを表面的に聞いた産婦人科医が「ルナルナ=悪」という印象を抱いてしまっている現実はあると思います。私も実際にそのように思っていた時期もありましたが、女性アスリートを支援するサービス『ルナルナ スポーツ』の監修医をされている能瀬さやか先生のお話を聞いたり、実際にアプリを使ってみて、サービスの仕組みやデザインなどに触れたりしているうちに、このようなツールを上手に使うことで女性にベネフィットが生まれることがわかってきました。

 私は常々、女性が基礎体温などのヘルスデータを『ルナルナ』に限らず何らかの形で記録しておくことの重要性を患者さんに指導しています。全くリテラシーがない人は、診察の際に最終月経日や痛みなどの症状を聞いて覚えておらず問診にも時間がかかるため、私の患者さんにはきちんと記録を付けさせ、月経の何日目に痛み止めをどの程度飲んだのかなども意識してもらうようにしています。それが習慣づくことで体調の変化や傾向にも自ら気が付けるようになり、PMSなどの把握・対処にも効果的ですので、妊娠希望/避妊希望に関わらず女性にとって必要な行動だと思いますね。ケースとしては少ないですが、気胸などが月経とリンクしている人もおり、そのような関係性は記録していないとわかりづらいので、記録することで自分がいつ苦しくなるのかなどを事前に把握するきっかけにしてほしいです。医師としては、最終的にはどのような対処を行えばカラダが楽になるのを知って欲しいので、広く女性の健康を支援するためにも『ルナルナ』のようなサービスとうまく連携することは有効な手段だと思います。

「ピルモード」のここがポイント!医師と患者の新しい懸け橋に 

今回監修頂いた「ピルモード」の特徴や、臨床現場でみるべきポイントを教えてください

キャプチャ画面 患者さんの視点から考えると、「ピルモード」は、製薬企業が異なる複数の薬剤を同じアプリで記録・管理できるところが便利です。ピルの服薬期間に応じたアドバイスが表示される「今日のひとこと」も、服薬初期などに起こりやすい副作用で悩んでいる際のサポートとなりありがたいと思います。

 また、医師と患者さんが同じツールで服薬状況を確認できる点が魅力ですね。ピルを服薬したときに生じる副作用などを記録することは大変重要ですので、我々も以前から複写式の記入シートなどを利用して医師と患者さんそれぞれが保有できるようアナログで管理していました。ただ、患者さんによっては紙に数字だけ書く人もいれば、エクセルに症状などをきれいにまとめてくる人もいて、診察時に持参する記録の形式が異なることでとても見づらくなってしまうという課題がありました。「ピルモード」では、皆さんが同じアプリで記録したものを、「ルナルナ メディコ」※1を通して医師側のパソコンやタブレット端末などで確認できる機能がとても画期的です。医師と患者さんが同じ形式で閲覧できる情報をもとに会話しながら診察ができるのは、患者さんの治療に関する理解の向上にも必ずつながると思います。 

 

先生女の子

アプリによる臨床現場での新たな発見にも期待!

―「ピルモード」が与える影響として、どのようなものがあるとお考えですか。

 今回のアプリが臨床現場へ浸透することで、新たな発見が生まれることにも期待しています。例えば特定の薬剤を服薬した際の症状の傾向を、複数の患者さんを対象に横断的に統計を取ることも可能になるでしょうし、全国のクリニックでの薬剤ごとの利用者数や割合、継続率などを『ルナルナ』がデータとして出してくれれば、クリニックにとって役立つ情報になるはずです。
 患者さんに服薬を継続させるコツは、服用開始時に、あらかじめ発生し得る症状を丁寧に説明しておくことだと思います。そのためには、症状の傾向を深く理解していなくてはなりません。私たちは実際に患者さんに、むくみ、不正出血などの有無、あればその時期を詳しく聞いています。ただ、服薬何日目にはこのような症状が出る、という記録を詳細にとっている先生は少ないと思うので、臨床医の先生には、諸症状の傾向などに注目して「ピルモード」を活用して欲しいです。そのような情報が蓄積され、視覚的にも見やすくなっていくことで、目の前にいる患者さんのサポートになるのは勿論ですが、それがほかの患者さんに説明する際のエビデンスになったり、医師としての知見となったりしていけば素晴らしいですね。

今後、服薬支援のデータが蓄積されれば、学術的にも価値のあるエビデンスが出てくることも考えられますので、学会発表などの可能性もあると思います。臨床現場でどのように活躍するのか、今からわくわくしています。 

女性が自らの性を誇りに思える世の中へ

今後ピルを取り巻く環境においてどのようなことを期待していますか。

 アプリの提供にとどまらず、患者さんの“モヤモヤ”を晴らせる活動ができればと思っています。

 既にピルを服薬している人でも、不安に思っていることを医師に相談しきれていなかったり、服薬の継続効果をもっと知りたかったりと、“モヤモヤ”を抱えたままの人が沢山いると思っています。それを出来るだけクリアにするために、ピルをモヤモヤしながら服薬している人を集めて薬剤について説明をする場を設けたり、簡単な診察を行うイベントを開催できたりすれば理想的だと個人的には考えています。Webやアプリで正しい情報を提供しても、それを読むだけでは伝えきれないことも必ずあると思いますし、逆にアプリだからこそ取得できる情報もあると思います。せっかく始まったプロジェクトなので、情報をばらまいただけで終わらせるのではなく、アプリとリアルな場をうまく使ってお互いを補完しながら、一方的な発信だけではなく双方向的なコミュニケーションを実現させたいですね。

 また、ピルを飲んでいるということで周りからセクシャルアクティブな女性だと見られてしまうなど、ピルに対する偏見がまだまだ残っていると感じていますが、この風潮は女性が自らの性を誇りに思うことを阻んでしまうもので、医師としては非常に憤りを覚えます。女性であるからこそ生じるカラダの症状を日常からきちんと意識し、QOLを高めるために自己管理をしている行為が「ふしだら」と思われてしまうような社会は間違っていると思うので、今回のような取り組みを世の中に知らしめることで、月経や基礎体温の管理の延長にピルの管理も抵抗なく語られるような世の中にしていきたいです。

 本プロジェクトは、そのような理解の浸透のために役立つはずだと信じていますし、正しい認識を広く伝えていくことは、学術的な面も臨床現場も知る大学病院の医師としての役割だと思っています。

 

 

※1:『ルナルナ』で記録した月経周期や基礎体温などの健康情報をクラウドで保存し、患者の希望の上で提携している医療機関へデータを連携開示できる医師と女性をつなぐシステム