国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)女性総合診療センター 不妊診療科の糸井しおり、女性の健康総合センター 女性の健康推進研究室の森崎菜穂室長らの研究グループと、月経管理アプリ『ルナルナ』を運営する株式会社エムティーアイ(所在地:東京都新宿区、代表取締役社長:前多俊宏)は、『ルナルナ』利用者を対象とした約7,000人のコホートデータを用い、月経前症候群(PMS)[1]および月経前不快気分障害(PMDD)[2]に関連する背景因子、心理社会的要因、月経関連指標を包括的に評価しました。
本研究は、月経管理アプリの記録と反復質問票を個人単位で連結したデータを用い、PMSやPMDDの心理社会的要因を多面的に検討した大規模解析です。
解析の結果、PMS(23%)およびPMDD(10%)は、月経症状負担の高さに加えて、現在・過去の喫煙、家庭内暴力などの逆境的小児体験(ACEs)、低いヘルスリテラシー、および不適応的ストレスコーピング(ストレスへの望ましくない対処)などの背景・行動要因と関連していました。さらに、心理的苦痛の高さ、睡眠の質の低下、ワークライフバランス(仕事と家庭の相互作用)の悪化とも関連していました。
本研究成果は2025年12月に国際学術誌 International Journal of Gynecology & Obstetrics(IJGO)に掲載されました。
[1] 月経前症候群(PMS)とは、月経前(多くは排卵後から月経開始前)にこころとからだのさまざまな不調が繰り返し出現し、月経開始とともにそれらの症状が軽快する状態のこと。
[2] 月経前不快気分障害(PMDD)とは、PMSの中でも特に気持ちの落ち込みやイライラ、不安などの気分症状が強く、日常生活に大きな支障をきたす状態のこと。
【プレスリリースのポイント】
- PMS/PMDDは、20代などの若年層に多い傾向がわかりました。
- PMS/PMDDは、月経症状の多さと関連していました。
- PMS/PMDDはいずれも、現在・過去の喫煙、逆境的小児期体験、低いヘルスリテラシー、不適応的ストレスコーピングなどの背景・行動要因と関連していました。
- PMS/PMDDはいずれも、心理的苦痛、睡眠不良、ワークライフバランスの悪化などの心理社会的負担と関連していました。
- PMDDでは婚姻歴や同居の子どもありとの関連が示唆され、PMSでは高リスク飲酒[3]との関連がみられました。
【背景・目的】
PMSおよびPMDDは、月経前に繰り返し心身の症状が出現し、日常生活や就労・学業、対人関係に影響することがあります。月経前症状は月経に関連する症状として捉えられがちですが、睡眠、ストレス、生活習慣、家庭や職場環境など、より広い心理社会的要因と関連している可能性が指摘されています。本研究では、大規模データを用い、PMS/PMDDに関連する要因を多面的に検討しました。
【研究概要】
研究デザイン・対象
国内で広く利用されている月経管理アプリ※(ルナルナ)利用者を対象に、アプリ内の質問票と個人の月経ログを連結して解析しました。月経前症状への回答内容に基づき、参加者を対照群/PMS群/PMDD群に分類しました。解析対象は6,966人で、PMSが23%、PMDDが10%でした。※累計2,200万ダウンロード(2025年6月時点)
評価項目
- 背景因子・行動要因:年齢、婚姻状況、同居の子どもの有無、喫煙歴、飲酒、逆境的小児期体験、ヘルスリテラシー、ストレスコーピング(ストレスへの対処法)など
- 心理社会的要因:心理的苦痛、睡眠の質、ワークライフバランス(仕事と家庭の相互作用:仕事→家庭/家庭→仕事)など
- 月経関連の指標:月経症状負担、周期特性(平均周期日数、周期変動、周期日数の異常)など
分析方法
年齢調整の多項ロジスティック回帰[4]により、対照群を参照としてPMSおよびPMDDに関連する要因を推定しました。
[3] 高リスク飲酒とは、平均純アルコール摂取量が20g/日(ビールなら500ml缶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯弱相当)を超える状態のこと。
[4] 多項ロジスティック回帰とは、3つ以上の選択肢からどの選択肢に属するかの確率の関係を推定する統計手法のこと。
主な研究結果
PMSとPMDDにおいて共通して関連がみられた要因
現在・過去の喫煙は、PMS/PMDDのいずれとも関連していました。
逆境的小児期体験が多いほど、また不適応的ストレスコーピング得点が高いほど、PMS/PMDDに該当する割合(可能性)が高い/関連が強い傾向がみられました。
ヘルスリテラシーが高いほど、PMS/PMDDに該当する割合(可能性)が低い傾向でした。
PMSで特徴的だった関連
高リスク飲酒はPMSと関連がみられました。
PMDDで特徴的だった関連
婚姻および同居の子どもありはPMDDと関連が示唆されました。
心理社会的負担
心理的苦痛と睡眠不良は、PMS/PMDDのいずれとも関連していました。
ワークライフバランス(仕事と家庭の相互作用)の悪化は、仕事→家庭、家庭→仕事のいずれの方向でも、PMS/PMDDとの関連が強い傾向が見られました。
月経症状の負担
月経前の症状を特徴とするPMS/PMDDですが、月経症状の負担も対照群と比べて顕著に高く、PMS/PMDDでは月経前のみならず月経に関連する症状全体の負担が大きい可能性が示唆されました。
(注)本研究は観察研究であり、因果関係を直接示すものではありません。
【発表者のコメント】
本研究は、PMS/PMDDが月経前症状の負担だけでなく、月経時の症状負担も大きく、睡眠、心理的ストレス、ワークライフバランス、ヘルスリテラシー、ストレスコーピング、喫煙や過去の逆境体験など、心理社会的・行動的な要因と幅広く関連する可能性を、大規模な一般集団データで示唆しました。月経前症状への支援は、症状をコントロールすることに加え、生活背景や心理社会面を含む統合的アプローチが重要と考えられます。
【発表論文情報】
タイトル:Psychosocial and menstrual correlates of premenstrual disorders: A community-based study
執筆者:糸井しおり1,2,3、三瓶舞紀子1,4、辰巳嵩征2,5、大須賀穣3,6,7、甲賀かをり3,8、鳴海覚志9,10、森崎菜穂1,11
所属:
1) 国立成育医療研究センター 社会医学研究部
2) 国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 不妊診療科
3) 東京大学大学院 医学部 産婦人科学教室
4) 日本体育大学 体育学部健康学科
5) 梅ヶ丘産婦人科
6) 帝京大学 臨床研究センター
7) 帝京大学 医学部産 婦人科学講座
8) 千葉大学大学院医学研究院 産婦人科学講座
9) 国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部
10) 慶應義塾大学医学部 小児科
11) 国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター 女性の健康推進研究室
掲載誌: International Journal of Gynecology & Obstetrics
DOI:10.1002/ijgo.70752
【特記事項】
本研究は、厚生労働科学研究費補助金(女性の健康の包括的支援政策研究事業) 女性の健康課題、特にやせ、飲酒等の課題の解決に向けた方策、及び、新たな女性の健康課題の指標・目標の策定を推進するための研究」の支援を受けて実施しました。
報道関係の方からのお問い合わせ先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室 神田・村上
電話: 03-3416-0181(代表) E-mail: koho@ncchd.go.jp
株式会社エムティーアイ 広報部
電話: 03-5333-6755 E-mail: mtipr@mti.co.jp


