現役医師が語る、オンライン診療から始まる未来のクリニックのかたち

(株)カラダメディカ 代表取締役インタビュー

 

 (株)エムティーアイと(株)メディパルホールディングスの合弁会社である(株)カラダメディカは、オンライン診療システム『CARADA オンライン診療』『ルナルナ オンライン診療』を運営しています。
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により急速に導入が広がるオンライン診療は、遠隔にいながらも医師の診療や薬の処方までを受けられるため、感染症の拡大抑止や感染リスクを低減するだけでなく、物理的な距離や通院時間の面でもメリットの大きい取り組みとしてこれまでの生活様式を変える新たなツールになると推測されます
 今回は、オンライン診療をはじめ、これからますます変わっていくであろう医療機関のあり方について、(株)カラダメディカの代表取締役であり現役の医師でもある菅原誠太郎氏のインタビューをお届けします。

 

 

菅原 誠太郎

株式会社カラダメディカ 代表取締役

聖マリアンナ医科大学 助教/大学病院救命救急センター 医長

2010(平成22)年 福井医科大学 医学部卒

2018(平成30)年 慶應義塾大学大学院 経営修士課程修了

専門/担当分野:救急集中治療

日本救急医学会 救急科専門医

 

 

 

●インタビュー日:2020年5月19日

「生かせる命をきちんと生かせる医者になりたい!」 救命救急医師としての原点とは?

―現役の医師としてのお仕事内容を教えて下さい。

 医師歴は11年目で、現在は聖マリアンナ医科大学の救命救急センターに勤務しています。
 医師としての仕事は、救急車で運ばれてくる重症の患者さんを診療することがメインです。ただ、夜間に関しては軽傷の患者さんから心肺停止の状態の患者さんまで幅広く診ています。
 基本的に病院はどのような患者さんも受け入れられるよう間口をオープンにしていますが、その中には入院が必要な患者さんもいれば他病院で対応が必要な方もいるため、個々の状況を適切に見極め、行先を判断しているという意味で、救命救急は病院の入り口を担っている場所だと考えています。

 救命救急の道を選んだのは、「生かせる命をきちんと生かしたい」という思いがあったからです。
 幼い頃に地元の小児科の先生がどんな病気やケガでも診てくれたという自身の原体験から、私の中で、医者=基本的に何でも相談に乗って処置してくれる存在、というイメージが強かったため、自身の専門外の患者さんは診られない医師にはなりたくないとずっと考えていました。最近はスペシャリティが高いほど医師としての価値も高いと考えられるケースが多いことや、専門医以外は診ない方が安全という考えももちろん理解できます。しかし、例えば都心ならそのようなスタンスでも問題ないかもしれませんが、医者の数が限られているような田舎であればその対応では難しくなります。そう考えた時、医師免許を持っている限りは、目の前に苦しんでいる患者さんがいれば、どのような症状であっても命を生かせられるよう、最低限の応急処置を行ったうえで専門医のところへ届けられる医者でありたいと思い、医師の中でもジェネラリストとして救命救急の医師になりました。

病院経営に対する問題意識から、「医師」と「企業家」の二足のわらじを履くことに

―医師でありながら、IT企業であるエムティーアイグループの(株)カラダメディカの事業に携わるようになった経緯を教えて下さい。

 研修医として働き始めたころから、病院の経営は非常に効率が悪いということを実感していました。実際、全国の病院の中でも黒字化しているところは少ないと思います。
 初期研修中は、朝から晩まで働いていました。その生活が2カ月ほど続いた頃には「このままでは自分が死んでしまう」と感じたほどです。しかし、自分を含め医師が必死に働いているにもかかわらず、病院の経営状況が悪いということを知り、その状況に疑問を抱きました。そこから院内の業務を注視してみると、病院の中には効率が悪いことが多々あることに気が付きました。
 例えば、同意書は本来オンライン上のサインで良いのですが、それを電子カルテから印刷し、印刷したものをもって患者さんに説明し、患者さんがサインしたものを再度スキャンして電子カルテに取り込んでいます。出力した同意書をもう一度取り込むという無駄な作業が発生している上に、スキャンするために事務員がいることもありました。
 院内の実態を把握していくにつれて、このままでは日本の病院経営が危険だという意識が芽生え、このような状況を解決し病院を変えるためには経営を学ぶ必要があると感じ、救急の専門資格を取得した後に慶應義塾大学のビジネススクールに通い始めました。ゆくゆくは病院の経営企画のような部門でも貢献できればと考えていたので、医療政策のゼミに加えマーケティングのゼミも選択していたのですが、そこでエムティーアイの事業と出会い、カラダメディカのオンライン診療事業を知りました。当初は事業をするという視点はなかったのですが、企業が保有するICTの力で病院業務を効率化できる可能性に魅力を感じ、代表取締役として事業を推進していく決断をしました。

現場を知る医師が手掛けているからこそ、『CARADA オンライン診療』は臨床現場の声を生かしたサービスに発展!

―現役医師だからこそ事業に生かせているポイントとは、どのような点でしょうか。

 私は、オンライン診療は、慢性疾患を抱え定期的に薬の処方が必要な患者さん(特に働きながら治療をしているような世代の方)にとって、選択肢のひとつとしてあるべきだと考えています
 オンライン診療のシステムを提供する側として、現役医師であることが最も生かせるのは、やはり“現場感”です。私は普段の診療でも電子カルテを利用していますし、医療事務の方などともよくコミュニケーションを取っているため、現場で今どのような問題が起こっているか、医師やスタッフの業務がどのような状態で上手く機能しているのかどうかということも把握できています。そのノウハウや知見を事業にも生かせる機会は多いですね。
 また、今回の新型コロナウイルス感染症のように外部環境が大きく変わっているときも、今後の状況の変化が予測しやすいというのは事業を進めていくうえでも大きく、新たな機能開発やサービスの質の向上などにつながっていると思います。 

―『CARADA オンライン診療』の特長を教えてください。

 製品の最大の特長は、導入後の充実したアフターフォロー体制です。医療機関には、ITリテラシーが高くない人も多いため、システムIDだけ渡しても活用できなかったり、推奨環境などを記載してもその通り使えなかったりということが往々にして起こります。ただ、そのような場合でもある程度フローを周知して何度か利用経験を積めばその後は継続して活用できるようになるため、最初の1カ月は全国の拠点に在籍する営業担当者が積極的にアフターフォローを行うことで、安心してサービスを使っていただく環境の整備を図っています。導入スピードも早く約5営業日で利用が開始できるため、このような非常時で早急な導入が必要となる場合にも迅速に対応が可能です。
 また、サービスの仕組みも非常にシンプルで、全てブラウザで完結している点も評判が高いですね。利用者からするとアプリのダウンロードもWEBの設定も必要だとサービスを使うまでにかなり手間がかかってしまうため、ブラウザだけで利用できることが喜ばれています。

エムティーアイグループだからこそ実現できる、次世代スマートクリニック構想とは?

―今後のサービス展望をどのように考えられていますか。

 オンライン診療単体のシステムとして考えると、これ以上の機能は必要ないと思っています。

ただ、単なる「オンライン診療システム」ではなく、クリニックの「ソリューション」として考えたとき、同じエムティーアイグループの、電子カルテのシステムを手がける(株)クリプラや、クラウド薬歴システム『Solamichi』を提供する(株)ソラミチシステムとの連携が鍵になってくるでしょう。

 

 

 今はクリニックから薬局へFAXで処方せんを送る場合が多いのですが、それは非常に面倒で手間もかかるため、将来的には電子処方せんシステムができるのではと考えています。そうすると、クリニックでは『CARADA オンライン診療』で診療を行い、クリプラの電子カルテにて処方せんを記録すると、そのままクラウド薬歴『Solamichi』に情報が送られ薬局にて薬の処方が可能となるため、患者さんの受診スタイルも変容させるクリニックのトータルソリューションをエムティーアイグループで提供できるようになります。
 このシステムを実現するには法改正も必要となりますが、医療機関にとっても患者さんにとっても手間の削減になるなどメリットが大きいため、この次世代スマートクリニック構想をエムティーアイグループの力を集約して実現させるべきだと思っています。医療機関にとって利便性の高いシステムを提供することが、自ずと患者さんからも選ばれることへ繋がります。幅広いクリニックソリューションを連携させながら提供できるのはエムティーアイグループ独自の強みのため、Afterコロナ・Withコロナの社会におけるクリニックの新たなあるべき姿を示すことをゴールとして見据えています。

「オンライン診療」は今後も選択肢のひとつとして活用されるべき仕組み

―現在新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一つとしてオンライン診療は広がっていますが、今後、オンライン診療はどのように発展していくと考えられていますか。

 Afterコロナ・Withコロナの社会においても、慢性疾患のアフターフォローや定期通院に関してはオンライン診療で充分だと思います。今回の新型コロナウイルス感染症以前から感じていたことですが、インフルエンザなどが流行している時期に基礎疾患などを持つ高齢者の方がわざわざ対面で受診に行くのはリスクでしかないです。それにも関わらず「薬をもらわないと」という日本人の真面目さもあり、病院まで足を運ぶ人が多いため、そのような状況はこれを機に変わっていくべきだと思います。
 ただ、私の専門である救命救急はもちろん、慢性疾患であっても普段と違う症状が出た場合や病状が変わっていくような疾患にはオンライン診療は不向きだと考えています。例えば急な頭痛や胸痛などの症状がある場合は、くも膜下出血や心筋梗塞の疑いなども視野に入れ診療する必要があるため、オンライン診療は適さないと思っています。

―医療機関がオンライン診療システムを導入する意義について、どのように考えられていますか。

 医師によっては、オンライン診療による誤診の不安などもあるようですが、そこは患者さんへの十分な説明ができているかどうかで変わってくると思っています。救急の場合でも、夜中には検査ができない状況などもあり、その場できちんとした診断がつくのはだいたい半分程度です。そのような中でも我々は必ず、帰宅の際に「あなたには○○と○○の可能性があるため、このような症状がある場合は必ず病院に来てください」と説明し、私の場合はその内容を電子カルテにも残しています。指示された患者さんは、その症状があれば、不安なく受診をしてくれます。オンライン診療の場合も、このように考えられる可能性や、受診して欲しい基準を明確に伝えることが誤診などのリスクを軽減するためにも非常に重要だと思います。

 今回の新型コロナウイルス感染症の影響で一般の人々の意識も大きく変わり、通院による感染リスクなどを考える人が増えたため、今後もオンライン診療の需要は高まり定着すると思われます。新型コロナウイルスが終息したとしても、また同様に感染症が流行する可能性は大いにあり、その際患者さんがわざわざリスクの高い対面での診療を受けに病院に行くとは考えにくいです。そのようなときのためにもオンライン診療が患者さんの命を守る選択肢の一つとしてあるべきですし、非常時においても安定した医療環境の提供を継続させることを考えても、医師はオンライン診療ありきで今後の経営を考える必要があると思います。
 今課題である診療報酬に関しても、対面診療と比較してもオンライン診療の結果が変わらないことがエビデンスとして示せるなどのきちんとした実績が出てくれば、今後恐らく変わってくるのではないかと私は考えています。

患者側は、今後オンライン診療とどのように向き合っていけば良いでしょうか。

 患者さんにとってはオンライン診療へのハードルが高いという声も聞きますが、個人的には不安なことがあれば、まずは受診をしてみると良いと思います。実際にオンライン診療を受けてみて、状態を見て医師が経過観察するべきか、来院して検査をすべきか判断してくれると思います。患者さんにとって、移動時間、待ち時間がないなどのメリットは大きいです。さらに現在では感染予防という面からしても、オンライン診療を活用する意義は高いと思います。体調が優れずに悩んだときは、オンライン診療を使ってみても良いと思います。

 

 

 

 

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