国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)女性の健康総合センターの森崎菜穂、糸井しおり、千葉大学の甲賀かをりらの研究グループと、月経管理アプリ『ルナルナ』を運営する株式会社エムティーアイ(所在地:東京都新宿区、代表取締役社長:前多俊宏)は、『ルナルナ』利用者を対象とした大規模コホートデータを用い、体格指数(BMI)と月経周期の規則性との関連を、「現在のBMI」および「同一個人内でのBMIの変化」の観点から検討しました。解析の結果、平均周期日数および個人内変動(周期日数の標準偏差)はいずれも標準BMI付近で最も安定しており、BMIが標準域より低い場合も高い場合も不安定になりやすいという関連がみられました。さらに、体格の変化に着目すると、標準BMIから過体重/肥満へ移行した人では月経不順が増え、反対に過体重/肥満から標準BMIへ移行した人では月経不順が少なくなることが示されました。これらの結果から、長期的に標準BMI付近を保つ(または標準BMIへ近づく)ことが、月経周期の規則性という観点で望ましいと考えられます。
本研究成果は国際学術誌 npj Women’s Healthおよび BMC Women’s Healthに、それぞれ2025年2月および2026年1月に掲載されました。
【図1:標準BMI付近で月経周期は最も安定(模式図)】
【プレスリリースのポイント】
- 月経管理アプリの前向きログデータ(最大約19万周期)を用い、平均周期日数・個人内変動はいずれも標準BMI付近で最も安定しやすく、標準域より低くても高くても不安定になりやすいことがわかりました。また標準BMIと比較し、BMIが低い/高いほど月経周期が長く、個人内変動も大きいことを確認しました。
- 月経異常の指標である無月経および稀発月経[1]も、BMIが標準範囲を外れるほど増加し、やせ(BMI15–18.4)で無月経との関連が、肥満(BMI23–35)で無月経と、稀発月経との関連が分かりました(いずれも標準BMIを基準)。
- 同一個人内でのBMIカテゴリー変化の解析では、標準BMIから過体重/肥満への移行で月経不順が起こりやすい関連がみられ、過体重/肥満から標準BMIへの移行では月経不順が起こりにくい関連がみられました。
- これらの結果は、BMIの「極端さ(やせ・肥満)」と、同一個人内での「体格の変化」の双方が、月経周期の規則性(日常で観察できる“健康のサイン”)と関連する可能性を示します。
[1] 稀発月経とは、月経周期が39日以上または3か月未満と、通常より長い周期で起こる月経不順の一つ。
【背景・目的】
月経周期は、妊孕性や内分泌系の状態を反映し得る「健康の指標」の一つです。BMI(体格指数)が排卵や月経に影響することは知られている一方で、特にアジア人の一般集団においてBMIと月経周期の量的指標(平均周期日数や個人内変動)を大規模に評価した研究はエビデンスが限られていました。 また、同一個人内でBMIが変化したときに月経不順がどのように変化するかについても、十分なデータがありませんでした。そこで本研究グループは、月経管理アプリ利用者の大規模コホートデータを用い、BMIの「現在の値」と「変化」の両面から、月経周期の規則性との関連を検討しました。
【研究概要】
本発表は、同一の月経記録アプリデータを用いた以下の2研究の成果を統合して紹介します。
研究デザイン・対象
国内で広く利用されている月経管理アプリ『ルナルナ』利用者を対象に、2019年1月から2021年3月までに記録された月経ログと、アプリ内質問票データを連結して解析しました。質問票はWave 1(2020年1月〜3月)およびWave 2(2020年5月〜6月)を中心に用いました。
研究1:BMI(現在値)と月経周期・月経異常の関連(npj Women’s Healthに掲載)
8,745人の191,426周期の月経ログを解析し、BMIと周期日数/ばらつき、無月経・稀発月経等との関連を評価しました。基礎体温データは3,221人の15,883周期について解析しました。
BMIは、やせ(15–18.4)、標準(18.5–22.9)、過体重(23–24.9)、肥満(25–35)に分類しました。
評価項目(アウトカム):
- 平均周期日数
- 個人内変動(各個人における周期日数の標準偏差)
- 無月経・稀発月経等の月経異常指標
- 二相性周期[2](排卵の指標)の割合
[2] 二相性周期とは、基礎体温が「低温期(卵胞期)」と「高温期(黄体期)」の2つにはっきりと分かれる状態のこと。
研究2:BMIカテゴリーの変化と月経不順の関連(BMC Women’s Healthに掲載)
5,444人の126,008周期を解析し、18歳時からWave 2時点までのBMIカテゴリー変化(長期的変化)およびWave 1からWave 2までの数か月間におけるBMIカテゴリー変化(短期的変化)と、月経不順の関連を評価しました。月経不順は平均周期日数が24–38日の範囲外の場合と定義しました。
BMIは、やせ(15–18.4)、標準(18.5–22.9)、過体重・肥満(23–35)に分類しました。
曝露(BMIカテゴリーの変化):
- 長期的変化:18歳時から調査時点のBMIカテゴリー変化
- 短期的変化:調査期間内の数か月間におけるBMIカテゴリー変化
評価項目(アウトカム):
月経異常(個人の平均周期日数が24–38日の範囲外)の割合
主な研究結果
1)BMI(現在値)と周期日数・周期のばらつき:正常域BMI付近を底とするJ字型の関連
平均周期日数は正常域BMIで最も短く、BMIが正常域より低い、もしくは高いと平均周期が長くなることが示されました。(図1)
周期日数のばらつき(平均周期日数の標準偏差)も正常域BMIで最小であり、BMIが正常域より低い、もしくは高いとばらつきが増加することが示されました。
2)無月経・稀発月経:標準BMIから外れるほど増加する傾向
BMI分類別の解析では、標準BMIを基準として
・無月経:やせと肥満群で増加する傾向が示されました。
・稀発月経:過体重および肥満群で増加する傾向が示されました。
BMI連続値を用いた解析では、無月経、稀発月経ともに正常域BMIを低値として、BMIが正常域より低い、もしくは高いと増加する傾向が示されました。
3)排卵の指標(基礎体温の二相性):標準BMIで高く、低BMI/高BMIで低下する傾向
基礎体温から推定される二相性周期の割合は、標準BMIで高く、低BMI/高BMIで低下する関連が示されました。
4)個人内のBMI変化:増加方向で不順が増え、長期の正常化で不順が減少 (図2)
18歳時から調査時のBMIカテゴリーの変化と、調査時の月経不順については、以下の関連が示されました。
・長期的な標準BMIから過体重/肥満への移行は月経不順が増加する傾向あり
・長期的な過体重/肥満から標準BMIへの移行は月経不順が減少する傾向あり
また、調査期間内での短期的なBMIカテゴリーの変化では、以下の関連が示されました。
・短期的な標準BMIから過体重/肥満への移行は、追跡期間に新規発生した月経不順が増加する傾向あり
【図2:BMIカテゴリーの変化と月経不順の関連(調整オッズ比)】
【発表者のコメント】
- 本研究は、月経管理アプリの大規模データにより、BMIが標準範囲を外れるほど月経周期の延長・変動増大、月経異常が増えること、また個人内でのBMIのカテゴリー変化が月経異常リスクと関連することを示しました。
- これらは観察研究であり、因果関係の確定ではありませんが、月経周期を継続的に把握することが、体格変化に伴う「健康の変化」を「見える化」する一助になる可能性があります。
- 今後は、より詳細な栄養・身体活動・産科歴等の情報を組み合わせ、月経周期変化の機序や支援介入(デジタル介入を含む)の有効性評価へつなげることが課題です。
【発表論文情報】
<1>
タイトル: Body mass index and menstrual irregularity in a prospective cohort study of smartphone application users.
執筆者:糸井しおり1,2,3、三瓶舞紀子1,4、辰巳嵩征 2,5、大須賀穣3,6,7、甲賀かをり3,8、
鳴海覚志9,10、森崎菜穂1,11
所属:
1) 国立成育医療研究センター 社会医学研究部
2) 国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 不妊診療科
3) 東京大学大学院 医学部 産婦人科学教室
4) 日本体育大学 体育学部健康学科
5) 梅ヶ丘産婦人科
6) 帝京大学 臨床研究センター
7) 帝京大学 医学部 産婦人科学講座
8) 千葉大学大学院医学研究院 産婦人科学
9) 国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部
10) 慶應義塾大学医学部 小児科学教室
11) 国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター 女性の健康推進研究室
掲載誌: npj Women’s Health 掲載日:2025年2月27日
DOI:10.1038/s44294-025-00065-z
<2>
タイトル: Within-Individual Changes in BMI and Menstrual Irregularity: A Cohort Study Using Real-World Data.
執筆者:糸井しおり1,2,3、三瓶舞紀子1,4、辰巳嵩征 2,5、石田理沙3、泉玄太郎3、大須賀穣3,6,7、甲賀かをり3,8、鳴海覚志9,10、森崎菜穂1,11
所属:
1) 国立成育医療研究センター 社会医学研究部
2) 国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 不妊診療科
3) 東京大学大学院 医学部 産婦人科学教室
4) 日本体育大学 体育学部健康学科
5) 梅ヶ丘産婦人科
6) 帝京大学 臨床研究センター
7) 帝京大学 医学部 産婦人科学講座
8) 千葉大学大学院医学研究院 産婦人科学
9) 国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部
10) 慶應義塾大学医学部 小児科学教室
11) 国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター 女性の健康推進研究室
掲載誌: BMC Women’s Health 掲載日:2026年1月28日
DOI:10.1186/s12905-026-04308-2
報道関係の方からのお問い合わせ先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室 神田・村上
電話: 03-3416-0181(代表) E-mail: koho@ncchd.go.jp
株式会社エムティーアイ 広報部
電話: 03-5333-6755 E-mail: mtipr@mti.co.jp


