『ルナルナ』が見据えるFEMCATIONのこれから【後編】

【後編】日常に医療が溶け込み、もっと女性を自由にする『ルナルナ』へ

 【前編】20年目の答えとして、改めて辿り着いた“寄り添い”では、『ルナルナ』のこれまでの歩み、そしてなぜいま「FEMCATION」※1のプロジェクトが始動したのかを、ルナルナ事業部の事業部長 日根麻綾と副事業部長 那須理紗の二人に語ってもらいました。
 後編は、「FEMCATION」が本格的にスタートしたことで今感じている手応えや課題、そして『ルナルナ』の未来についてのインタビューです。

 

プロフィール

 

 

 

日根麻綾(ひね まあや)

2006年入社

執行役員
ヘルスケア事業本部
ルナルナ事業部 事業部長

 

 

 

 

那須理紗(なす りさ)

2013年入社

ヘルスケア事業本部 
ルナルナ事業部 副事業部長

 

 

 

本格始動した「FEMCATION」!異業種と「女性の健康課題」に取組める新鮮な喜び。

Q.「FEMCATION」のプロジェクトとして、これまで異業種とのコラボ企画や他企業へのセミナー開催を行っていますが、女性のカラダとココロに関する世間の理解度というのは上がってきているように感じますか?

那須:「FEMCATION」を発信し始め、このプロジェクトの想いに賛同してくださった様々な業種の企業から複数お声がけいただき、とてもありがたく思っています。その中でもグループ会社であるカラダメディカと実施している企業向けの理解浸透プログラム「女性のカラダの知識講座」を実施してくださる企業はどんどん増えてきています。

 

日根:カラダメディカとの取組みでは、予想外の企業からお声がけいただきました。会社として女性従業員の健康やフェムテック2などに投資する意思決定をしている企業が明らかに増えており、知識講座に限らず、他企業と何か一緒に取組める機会をいただくなど、この領域にビジネスとしての価値を感じる企業が増えたのではないかと感じています。

 

那須:報道のありかたとしても、女性向けの媒体だけでなくビジネス誌などから取材いただくなど、フェムテックが市場として認められ、ニッチなものというよりも身近なもの、これから伸びていくものとして扱われている印象です。

また、「女性のカラダの知識講座」は男性からも好評です。これまでなんとなく察するしかなかった女性の機微について、正しい知識をもとに理解でき、直接声をかけることは難しくてもサポートしやすくなったという嬉しい声が届いています!今は本講座の実施を検討される担当者は女性が多いのですが、男性の方と打ち合わせをする機会も増えてきており、今後はより一層男性とも同じ温度感で働く女性の健康課題を語れたり取組みを実施できれば嬉しく思います。また、医師による知識講座に参加した女性からも、これまで自分だけで抱えていた生理の悩みを、もっと気軽に病院を受診したり薬を処方してもらって良いんだという気づきがあった、などの声がありました。

他企業とのコラボレーションを実現できたという点では、異業種であっても女性の健康課題に関する理解促進、という同じ目的を持って、それぞれの業種だからこそできることを一緒になって取組めたというのは私たちにとって非常に新しく、大変光栄でした。

女性の健康について理解を深める新たな場として “職場”に大きな可能性

Q.先日はじめて「FEMCATION白書」として、男性に限定した意識調査も行いました。その結果から感じたことを教えてください。

★「FEMCATION白書」の全文はこちら

日根:一番興味深かったのは、女性特有の福利厚生が充実している職場に勤めている男性ほど、女性の健康課題を解決すべきだと思っていたり、男女関係なく同じ知識を持つことに価値を感じているという点でした。

福利厚生は企業にとって大切ですが、従業員はそれだけで入社を決めているわけではないと思うので、入社後に福利厚生が充実していたことにより、結果として女性の健康についても理解を深め、必要性を強く感じるようになったという人がほとんどなのかなと推測しています。
女性のカラダ・ココロについて学ぶ第1の場である学校の性教育は、生殖機能とその発達の話が基本ですし、第2の場である家庭環境は自分ではコントロールできないもので、家族やパートナーに女性がいない場合、女性のカラダやココロの仕組み、それによる悩みを知る機会は少ないと思います。しかし、今回新しい可能性として職場は男性が女性のカラダについて知る第3の場なのだなと改めて感じました。

健康経営の観点でも女性の健康を支援するという企業が増えていきている流れがあるので、職場という環境には非常に期待できるなと、この意識調査で改めて気づくことができました。

 

那須:私もそう思います。女性を支援する福利厚生が充実していくことで環境が整い、理解も後からついてくるのではないかと感じました。

 

 

日根:今後より理解促進の余地があるのではと思っているのは50代以降の男性ですね。今回の意識調査は15~49歳の男性を対象としていたため、その年代の声は聴けなかったのですが、新しい価値観などを学ぶ機会が少ない可能性もあり、意識変革が難しいのは50代以降の男性かもしれません。ただ、今回若い世代ほど意識が高いという結果も明確に見えたので、明るい未来しかないと思っています!

 

 

また気になるのは、PMS(月経前症候群)への理解の低さですね。PMSを感じる女性は非常に多いにも関わらず、生理や妊娠と比較するとPMSの理解が低い結果となりました。これは仮説ですが、現在の性教育は基本的に生殖に紐づいた内容のため、生理や妊娠・出産・中絶については男性もある程度理解できても、PMSについては学ぶ機会がないのだと思います。そのため、PMSについては、企業の実施するセミナーを受講するなど、男性が積極的に情報を取りに行かなければ知ることができないという問題があるのではないでしょうか。ただ、女性にとって日常生活はもちろん、仕事や勉強、スポーツなどのパフォーマンスに直結する問題のため、PMSへの理解浸透はさらにサポートすべき大きなテーマのひとつですね。

 

 

 

 

那須:確かに、PMSについてまったくわからないと答えた人は多いですね。

 

日根:私の感覚ではありますが、2012~13年あたりは女性であってもPMSを知らない人は多かったと思います。

 

那須:実は私も2013年に入社して初めてPMSという単語を知りました。

 

日根:そうですよね。生理痛や生理中の症状と勘違いしている人が多いようですし、ほんの数年前まで女性の中でも知らない人が沢山いたと考えると、まだ男性に浸透していないのも当然の結果ともいえますね。

 

アンケートを見てみると、PMS症状を感じている女性は94%いるけれど、それをPMSと呼ぶことを知らない女性は多いのかもしれません。

 

那須:生理に関連して起こる悪いことは全部一緒に考えられがちですよね。

 

日根:そうなんですよね。ただ、男女ともにPMSを正しく理解していないと、「つらいのは生理でしょ?」と判断されてしまう恐れがあります。例えば労働を切り口にしたとき、「では生理休暇があれば良いね」で終わってしまうと、実態と対策がマッチしないことになります。
PMSは人によって症状も様々で、女性の中でも個人差が大きいものだからこそ、パフォーマンスに影響するのは生理だけじゃないことがより理解される必要性を感じますね。

身近になりつつある“フェムテック”。知識の個人差に左右されないための仕組みとは?

Q.最近のフェムテックの広がりをどのようにとらえていますか?また、今後事業として発展していくためにはどのようなことが必要だと思いますか?

那須:フェムテックの一般の認知はまだまだ低いと思います。それらの商品を購入できる場所も限られていますし、今後はそのような間口が広がっていくことを期待しています。また、新しい市場だからこそ、フェムテックも定義が難しく、それぞれの商品やサービスがどのようなものなのかメリットやデメリットを見極めて判断しなければ、場合によっては女性にとって不利益になるケースもあるのかなと感じています。

 

日根:ただ、個人のリテラシーにゆだねてしまうのは正しくないと考えていて、やはりいくつか仕組みが必要だと思っています。

法規制に関しては、規制緩和と整備の両輪が必要だと思います。現状、特に対策がされていないものでも、利用することで明らかに利用者の健康に不利益となるものは規制すべきですし、今の社会の在り方にマッチしていない古い規制がある場合は緩和すべきでしょう。ヘルスケア市場全体の問題でもありますが、規制緩和と整備、そのどちらのルールも整えられていく必要を感じます。

もうひとつは、市場に流れるお金ですね。フェムテック市場に対して、多様な視点で商材やサービスを創っていこうと思えるような投資マネーがないと参入する事業者やサービスが増えていかないと思います。今、ベンチャーキャピタルや商社が投資していますが、いいものを創ろうと思っている人、または創れる人たちがそれを実現できること、またそのリターンがきちんと期待でき対象である女性にしっかり届くような仕組みができることが必要だと思います。しばらくは色々な商品やサービスが出てきては淘汰され…を繰り返していくのではないでしょうか。

 

那須:市場のお金というと、政府からの補助金が出てきていることも良い傾向だと感じておりますが、さらに拡大されていくことが望ましいなと思います。

 

日根:一方で、最近のフェムテック・フェムケアの商材をみていると、高価格帯と低価格帯と分かれていて、個人的には良い傾向だと思っています。吸水ショーツなどが代表的で、これまで一部の限られた人にしか届かない、“嗜好品”の様なイメージがありましたが、あらゆる人にとって手に取りやすい価格で提供され始め、一般化されてきたことは非常に大きいと感じます。

ただ、スタートアップでフェムテックを始める企業などからすると、最初から低価格で大量生産は難しく、高価格帯の市場があるということも重要だと思います。今、フェムテック・フェムケアは多くの人がかかわれる市場でもあるし、よりケアしたい人にとっては高価格帯の商品など自分の満足につながるものが手に入る構図になっているため、健全な状態といえるのではないでしょうか。

新たな決意を胸に、婦人科医療への架け橋へ!

Q.最後に、今後『ルナルナ』が目指す未来像や、そのためにどのような挑戦をしたいか教えてください。

日根:「ルナルナ メディコ」※3やピルモード、「ルナルナ オンライン診療※4と、婦人科医療への連携をここ数年取組んできましたが、『ルナルナ』が将来的に実現したいのは、「婦人科医療へのアクセスビリティをめちゃくちゃ良くすること」です。

女性特有の健康課題を改善するための医療に、もっと気軽に、もっと簡単にかかれるようにすることが究極的に目指すところですね。

働いて、活躍して、子どもを産んで…という社会からの様々なプレッシャーを感じる女性もいるのではないでしょうか。しかし、初潮の早まりや子どもを産む機会の減少など、様々な要因により月経回数が増え婦人科疾患へのリスクも高まっています。そもそもの寿命や自分が働く人生も長い中で、女性が抱える生きづらさ・しんどさは少なくないと感じます。このような世の中だからこそ、医療や新しい技術などは積極的に活用し、早い段階から自分のカラダをうまくコントロールしていくこと、そしてそれを自分で決めていくことも個人の権利のひとつです

しかし、特に日本は婦人科受診への心理的ハードルが高いことや、ピルは避妊薬のイメージが強く、治療薬としての普及が進まないことが課題のひとつで、それによって医療の恩恵にあやかれずにつらい思いをしながらも頑張りすぎている人がとても多いと思っています。婦人科を受診し薬を処方してもらったり、さまざまな治療法・対処法を選択肢として持つことで女性はもっと楽になれるし、自分らしく生きられるはずです。その医療への架け橋に『ルナルナ』がなれたらと思います。
今までの『ルナルナ』は、生理がきたらなんとなく見て、日常的に自分の体調を把握し管理する、というところで終わっていたかと思うのですが、そのような日常にもっと医療が溶け込んでいくユーザー体験を目指したいですね
医療のDXというと医療機関の目線かと思いますが、女性の月経人生が約40年、断続的に続いていく中で、私たちはICTを用いてその日常にもっと自然に医療が溶け込んでいく、そんな世界観をイメージしています。

 

那須:かかりつけ医のような存在をもっと皆さんがもって、より気軽に婦人科を頼れるスキームを『ルナルナ』を通じて提供できたら良いですね。風邪をひいたら気軽に内科には行くと思いますが、婦人科の敷居はまだまだ高いようです。いま接点が少ないところをどんどん増やしていくことができれば理想です。

 

日根:究極は『ルナルナ』がかかりつけ、というのが実現出来たらいいなと思います。

 

那須:そうですね。『ルナルナ』が医師とつながれるプラットフォーム、というか。

 

日根:『ルナルナ』の先に医師や医療スタッフがいて、もし先生が毎回違っても、自分の情報や診療歴などがきちんとシェアされていて、どの先生・スタッフが対応しても同じように標準的な医療が受けられる世界観まで作れればハードルはかなり下がるのではないでしょうか。

そのような未来の実現を目指して、『ルナルナ』は今後もすべての女性に寄り添いながら、フェムテック市場のリーディングサービスとして発展していきたいです。

 

 

※1:FEMCATION;「FEMALE(女性)」と「EDUCATION(教育)」を掛け合わせた造語。複雑かつ多様性のある女性のカラダとココロについて正しく学ぶ機会を創出し、年齢や性別を問わず、社会全体で寄り添いあえる環境を目指す理解浸透プロジェクト。

※2:フェムテックとは、Female(女性)とテクノロジー(Technology)の掛け合わせで、女性の健康課題を、テクノロジーを通じて解決するサービスや商品のこと。フェムケアとは、Feminine(女性の)とケア(Care)の掛け合わせで、女性の健康をケアする製品・サービスをあらわしています。

※3:「ルナルナ メディコ」とは『ルナルナ』に記録した生理日や基礎体温、ピル(OC/LEP)の服薬時の体調などのデータを連携先の産婦人科・婦人科で診療時に閲覧できるシステムです。

※4:「ルナルナ オンライン診療」は(株)エムティーアイのグループ会社である(株)カラダメディカが提供する、婦人科に特化したオンライン診療サービスです。

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